yukiyoshisato's blog

とりとめのないめも

デリバティブ取引における担保と仮想通貨の親和性

ちょっと最近気になる動きがあったので、前々から感じていたことを徒然なるままに吐き出してみたいと思います。

jp.cointelegraph.com

バークレイズとかこういうことやってたんですね。どうやらこういったハッカソンはちょこちょこ行われていたみたいなので、自分のアンテナの低さを恨みますね。チャンスがあればやってみたかったなぁ・・・。

それはさておき、一応前職まででおよそ11年程デリバティブビジネスに身を置いたものとして、ぼんやり考えていたこととか書き記しておきたいと思います。

はじめに

この記事で触れられているISDA CDMについてですが、これはもともとISDAはFpMLというデリバティブプロダクトを表現するMarkup Languageをたぶん10年以上前ぐらいから?開発していたのですが、前々職でデリバティブ取引システムを開発していた頃も、「ふーんそういうのあるんだなー」ぐらいにしか思っておらず、その頃のシステムといえばまだ電子コンファメーションをするMarkitとかマージンコールするMarginSphereとかとも連携してなくて、孤立無援のシステムという感じで、他のシステムとの連携を意識してそういうのを使うような感じはありませんでした。あっても個々の金融機関内のインターフェースを個別に開発するような感じでした。

ところが、最近の電子化の流れからFpMLにもまた光があたり、ISDA CDMとしてプロダクト表現を統一的な解釈の元みんなで同じデータモデルの管理しようよ、プログラミングの仕方しようよ、となってきています。その背景には先にも触れた様々な外部サービス(Markit、MarginSphere、triResolve、等)との連携がほぼ必須になってきていることが後押ししていると思います。

デリバティブ取引と担保

簡単にデリバティブ取引と担保について触れておきたいと思います。デリバティブ取引とは金融商品の一種で、金利や為替、株などを指標にして様々のキャッシュフローをカスタマイズして作れるような商品です。そのため、取引をすると取り決めた日(約定日)があって、個々のキャッシュフローが発生する日が一定のルールに従って決められます。取引所などで取引されている定型化されたものとは異なり、機関投資家(バイサイド)などが個別の事情に従って証券会社(セルサイド)と取り決め内容を検討します。つまり、機関投資家と証券会社で1対1で取引が行われます。これを店頭取引(OTC取引:Over the Counter)といいます。

店頭取引の場合、あらかじめ決められたスケジュールでキャッシュフローを定義していても、その相手方が倒産した場合は、そのキャッシュフローをとりっぱぐれてしまいます。それが顕著になったのがリーマンショックですね。リーマンブラザーズは相当な額の取引をしていたので、それが全部水の泡になってしまって取引相手にも大打撃になりました。まともな会社はその予兆を感じ取ってあらかじめ取引を解約しておきますが。。。とはいえ解約するにもリスクヘッジやらなんやらで再取組み相手がいるかどうかとかいろいろ課題もあります。いずれにしろ倒産されては困るので、現時点で計測される商品価値(現在価値:Present Value)の分の担保をいれておくわけです。友達にお金貸すけどその代わりそれ相当の品物を預かっておくようなイメージですね。

担保管理業務の実態

簡単に言うと、担保管理は、日々変動するマーケットの情報をもとに各取引の現在価値が再計算され、それに合わせて担保物(お金、債券、株式、等)のやり取りをするわけです。例えばデリバティブ取引の価値が金利のマーケットが変動したことによって変わったらその分追加で担保を出すとか、あるいは担保物としてもらっていた債券の価値がさがってしまったのでデリバティブ取引の価値はそんなにかわってなくても追加の担保を請求するとか、そんなことを毎日やります。

そこにリーマンショックの反省から、グローバルな金融規制の一部としてこの担保管理業務もより精緻に厳密にやることを求められるようになりました。

実際、規制以前の担保管理の実務なんて、今日の締め処理(大体日本時間夕方のマーケットデータでやります)の時の現在価値を計算したら、それを翌日に相手方へ通知してそれから2~3日後に担保物を決済するような状況でした。なぜなら、締め処理自体夕方なので、それから相手方に通知していたら連絡取りあえるのは夜中になってしまいますし、お金はともかく証券の決済には現物の決済慣行やらブツの調達やら管理やらなんやらで手間暇かかりますので、2~3日のリードタイムは当たり前にかかっていました。

担保管理にかかる金融規制の内容

どのような内容だったかと言いますと、まぁもう一言でいえば、とにかくデリバティブ取引の現在価値が計算されたら直ちに担保のやり取りをせいという感じでした。担保が間接的に関連する規制では(金融の世界には色んなところに規制があります)、あたかも現在価値が計算された瞬間に担保がやり取りされないと要件をみたさないとして追徴金のようなものを課せられそうになったようなものもありました(恐らくそこは最終的にはある程度緩和されたはず…)。

でも規制当局の言っていることは理論的には極めて正しいです。株はともかく為替なんかは24時間動き続けますし、担保のやり取りのためのデリバティブ取引の現在価値の計算もとある夕方の一時点の断面でえいっと計算しているにすぎないですし、実際にその担保が決済されるのは計算時点から3~4日後(相手方への通知から2~3日後)なので、時々刻々と変化するマーケットにおいては、その分倒産リスクにさらされていることになります。そのため、マーケット変化に合わせてリアルタイムに現在価値計算がされて担保のやり取りをできれば、より精緻に倒産リスクを回避することが可能になります。

妥協策

結局のところ、担保請求のやり取り(マージンコールといいます)にしても、担保の決済にしても各国通貨、各国債券しかりですが、決済インフラの時間制約もあったりするので、はっきり言ってそんなことは無理なわけです。そこで、当局もある程度譲歩してくれつつも金融機関も頑張りましょうてきなところで一旦は落ち着きました。

仮想通貨の可能性

でも規制対応の業務考える仕事をしている傍らでこんなニュースを目にしました。

deutsche-boerse.com

こちらは店頭取引ではなく、CCP(Central Counterparty)取引に関する部分ですが(店頭取引は相手方の倒産リスクがあるので、それを排除しようと入れられた集中清算義務により、取引所でデリバティブ取引の決済をできるようにしたものです)、担保に関するブロックチェーンの仕組みを入れようというものでした。どうやら、最近アップデートがあったみたいですが、この記事を見てパッと感じたのは、店頭取引における担保も全部仮想通貨でやり取りしちゃえば決済インフラの制約とかうけなくていいじゃんと思ったことです。

なんなら、現在価値の計算結果照合なんかも一定のルールに従ってやるだけなので、Ethereumのスマートコントラクトとか使って実装してしまえば、

 

         デリバティブ取引の現在価値が再計算される

                  ↓

          その瞬間担保が仮想通貨で決済される

 

みたいなこととか普通にできるんじゃないかと思います。現状ではまだそのレベルでまともに使える(うまくヘッジできる)通貨とかなさそうですが、時代が進んでそういう面も市場が成熟してきて、そもそもどこの会社もその国の法定通貨で決算とかじゃなくて仮想通貨でやるような感じになってきたらガラッと変わるかもしれませんね。

突然突拍子もないことを言いましたが、もはや決算を親会社の特定の国や通貨に縛ってやるとかグローバルにビジネス展開している会社からしたら本当に意味があるのか謎ですし、いい意味でボーダーレスが進んで、ここで触れたことが自然とおこなわれるような時代が来たらいいんじゃないかと思います。

冒頭のニュースに話を戻すと、もうこのレベル以上にとがったものがハッカソンで出てくることを期待しています。私自身は今回のハッカソンに出るのはさすがにもうちょっと厳しいですが、別にこのハッカソンに限らず、今の自分がやっている仕事の延長なのか、あるいは別なのかはともかくとして、私自身もこういったことを社会実装していくためのお勉強もしていこうと思います。